介護学×心理学ブログ

低賃金、人手不足、3K、何かと問題ばかり抱える介護業界。なぜ、介護の分野は成長していかないのか?それは専門性が低いからであり、あったとしても感情的・根性論が多いのが現状。介護の専門性とは何か?どうすれば向上していくのか?介護の本質を知らない、あるいは興味がない経営者に代わって、論理的に解説するブログ。

心理学の視点から、『本当の自立支援とは何か』を考える。~「内発的動機付け」がカギ。

 

 あなたは、「自立支援って何?」と聞かれたら何と答えますか?

 

「リハビリ」「機能訓練」という答えが一般的かと思います。

 

これらの回答は間違いではありませんが、この単語が全てだと思っているとしたら少し違うように思います。

 

例えば老健なんかでは、在宅復帰に向けて毎日のようにリハビリの時間を割いていると思いますが、多数の利用者が自立していっているとは言い難いです。

 

むしろ、変に筋力がついてしまい、「問題行動」や「転倒リスク」が増加してしまうオチで終わってしまうケースも少なくはありません。

 

そこで、もっと本質的な部分に目を向けて、「リハビリ」や「機能訓練」が全てではないということを主張したいです。

 

心理学の知識を用いて、『本当の自立支援とは何か』を考えたいと思います。

 

お付き合い下さいませ。

 

 【目次】

 

 

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リハビリ、機能訓練という誤った考え。

 

 私は、リハビリや機能訓練には反対派です。(多分かなり少数派の意見)

 

というのも、リハビリや機能訓練で、単なる筋トレの効果を期待するだけの人に反対的な考えを持っています。

 

よく、在宅復帰を目指す老健やそうでない施設でも、「自立支援をしなければいけない」と、生活中にリハビリや機能訓練の時間を設けようとする人がいます。

 

その行為自体は素晴らしいものですが、自立支援=リハビリ、リハビリ=筋トレという考えの元に利用者の手を無理やり引っ張って歩かせるのはナンセンスです。

 

例えば、人間が歩行をすると、下肢筋力や体幹が鍛えられるだけでなく、気分の改善や脳機能の向上にも役立つと言われています。

 

そういった副次的な効果を意識せずして、散歩中に雑談するわけでもなく、ただ無理やり手を引っ張るだけの行為は、本当の自立支援とは言えないと思います。(というより効果が低い)

 

 

確かに、筋力をつけて身体機能を向上させることは重要なことですが、歩行自体に嫌悪感を感じさせてしまったりして、実際の生活に活かせない筋トレをしても無意味なわけです。

 

私たちは、その人が生活するために必要な機能をつける支援をするのが目的であって、利用者をボディビルダーの大会に出場させたいわけではないはずです。

 

そして、本当の自立支援という話をする上で、「歩行自体に嫌悪感を感じさせてしまったり」というのは重要なフレーズです。

 

 

「内発的動機付け」がカギ。

 

 心理学用語で、「内発的動機付け」という言葉があります。

 

まず、「動機付け」という言葉の概念としては、目標のためにとる自分の行動の原動力が何によって決まるかみたいな意味合いです。

 

その「動機付け」には、「外発的動機付け」「内発的動機付け」があります。

 

 「外発的動機付け」は、自分より外部からのご褒美や報酬、あるいは罰則によってつき動かされるものです。

 

「内発的動機付け」は、自分の内部にあるモチベーションが原動力となります。

 

よく、学習や教育関連で取り上げられる概念ですが、言葉の意味はわかりやすいと思います。

 

例えば、子供に宿題をやらせる時、達成したらご褒美があることを伝えたり、サボったら罰を与えると脅したりすると、「外発的動機づけ」としてのモチベーションになります。

 

「外発的動機づけ」で行動することになると、ご褒美や罰則がなくなった瞬間にやる気を失いやすいと言われています。

 

一方、「内発的動機付け」は、興味や関心といった内から沸き起こる感情をベースにしているため、モチベーションは高く維持されます。

 

ちなみに、元々「内発的動機付け」で行動している人に報酬を与えるとやる気をなくしてしまうこともあるそうです。(アンダーマイニング効果)

 

それほどに、自分の内部にあるモチベーションにベースを置く「内発的動機付け」は、人間の行動力に大きく関わっていると言えます。

 

要するに、本当に自立するための支援を行いたいのであれば、身体的な機能の向上ばかりに目を向けるのではなく、それも他者からの強制で訓練するのではなく、

その人が自分から「やりたい」と思える支援をすることが重要だということです。

 

 

 介護者がいないと動かないようでは、自立しているとは言えないでしょう。

 

もちろん、要介助から声かけのみのレベルに上がることを目指すことなどは良いことです。

 

しかし、それはまだ機能訓練の範囲であって、本質的な自立支援とは「自分でやろう」と心から思える支援をすることです。

 

それでは、人が自ら「やりたい」と思えるために必要なこととは何でしょうか?

 

それには3つの要素があると言われています。

 

 

その人をやる気にさせる理論がある。

 

  リハビリや機能訓練といった、努力を要することを成し遂げるのは辛いものです。

 

私たち自身も、給料がもらえるとわかっていたり生活を維持しなければならないということが頭で理解できていても、仕事は辛いものです。

 

そんな辛いことを、自ら「やりたい」と思えることなんてあるのでしょうか?

 

それを、ある理論を用いて解説したいと思います。

 

 

 人が自ら「やりたい」と思えるということは、それに対する欲求を持っているということができます。

 

心理学では、「やりたい」というモチベーションを支えるために、3つの要素があると言われています。

 

『有能感』『関係性』『自律性』の3つです。

 

これらは、心理学者のいう『自己決定理論』が定義している人間の基本的な欲求の3要素で、これら3つの要素を満たしている活動ほどモチベーションが上がるそうです。

 

 

『有能感』は、自分の能力が向上している、または活躍していることで満たされます。

 

『関係性』は、身近な人間関係や社会に貢献していると感じることで満たされます。

 

『自律性』は、誰かに命令されてではなく自分自身で決めて行動して自由を感じることで満たされます。

 

これらの欲求は、人間ならばだいたいの人に共通している欲求です。

 

利用者の方に対して『本当の自立支援』を行うならば、これら3つの欲求を満たしてあげる必要があるでしょう。

 

 

3つの欲求を満たす。

 

 まず、『有能感』を満たしてあげるには、目標をその人が努力して乗り越えられるレベルに設定してあげることでしょう。

 

注意しておきたいのが、相手は高齢者の方であることです。

 

子供や学生、若いビジネスパーソンであれば、「これからスキルアップするぞ!」という成長意識を持ち、実際に資格の取得や会社での出世をすることでこの欲求は満たされますが、老後になってこのような意識を持つことは難しいです。

 

そのため、目標に向けての努力を強いるよりも、少しの努力で乗り越えられるレベルの目標設定の方が重要で、その人に「私にもまだできることがあるんだ」という気持ちになって頂く必要があります。

 

足腰が悪い人に向けて下肢筋力の向上を目指すのもいいですが、どうしても年齢や病気による体力の低下で立てない人もいます。

 

それだったら、車いすに座ったままでもできる、食事の自力摂取や洗濯物をたたむ作業などに力を入れた方が良いでしょう。

 

このような取り組みを、介護現場では「利用者に役割を持ってもらう」と言うと思います。

 

人それぞれ残存機能に違いがあるため、それに合わせた自立支援を行い、その人ができる役割を持って頂いて、『有能感』を感じてもらいましょう。

 

 

 次に、『関係性』ですが、これを満たすには「役割」を持って頂いた利用者に感謝を伝えることです。

 

大げさに演技でもいいので、「あなたは役に立っている」ということを敬意をもって伝えましょう。

 

人間は、必ずと言っていいほど、コミュニティや人間関係にひかれてしまいます。

 

SNSで発信している人も、誰かが見てくれる可能性があるから発信しますし、誰にも影響しないことを好き好んでする人は少ないはずです。

 

人は、自分のやっている行動が誰かに影響を与えていることを期待したり意識してしまう生き物なのです。

 

「あなたのやっていることは誰かのためになっている」「あなたが存在していることには価値がある」ということを、工夫して伝えてあげましょう。

 

介護施設で「役割」を持たない利用者は、残った体力を使って介護士が困る行為をしてしまいがちです。

 

まるでそれが自分の「役割」であるかのように、、

 

そうやって自分の存在を証明することもまた、『関係性』を満たそうとしているのかもしれませんね。

 

 

 そして、最後の『自律性』が最も満たすのが難しく、しかし重要であり、今回のお話につながる欲求です。

 

『自律性』という欲求は、自分より外部の誰かによっての命令ではなく、自分の意思で決定したいという欲求です。

 

つまり、今回のお話にあるように、介護職員なんかが手を引っ張ってではなく、自らが「やりたい」と思えることで、『内発的動機付け』というモチベーションになり行動力が増すのです。

 

では、どうすれば、やる気もできることも減ってしまった利用者の方に「やりたい」と思わせることができるのでしょうか?

 

それは、正直わかりません。

 

その人が何にモチベーションを感じるかなんて、人それぞれ違うからです。

 

しかし、私たち介護職員たちは、毎日その人と関わるため、少しの感情の変化に気づきやすかったりもします。

 

その専門性を活かして、その人が内発的にやる気が出るような活動を模索し、それを増やしていきましょう。

 

私からの提案なのですが、その人が少し努力すればできること(有能感)、その人がしてくれたら(嘘でもいいから)助かることを、お願いしてみましょう(関係性)。

 

リハビリや機能訓練の内容が同じであったり、その出発点が介護者側であったとしても、指示や命令をして動かすのとお願いをして自分から動いてもらうのとでは全然意味が違います

 

もしかしたら、私たちにできる『自立支援』とは、その人が「やりたい」と思える活動の『提案』なのかもしれません。

 

 

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本当の自立支援とは?

 

 もう、ここまで読んで下さっている方なら答えがわかっているとは思いますが、その人の『内発的動機付け』を引き出すことです。

 

「リハビリ」や「機能訓練」といった身体的な筋トレのことではありません。

 

その人が自ら「やりたい」と思えるように、内側にアプローチをかけることです。

 

 

 ここからは、私の個人的な価値観による意見になりますが、

 

老後になって死ぬまでの間、少しでも悪くならないようにといって、機能訓練に励むのもいいですが、少し保守的にも感じます。

 

「これ以上悪くならないように」と、老化や病気が進行していることや現在の自分の姿やその流れを否定して過去に戻ろうとするのではなく、受け入れて「これからを生きよう」とするのが、最も現実的な自立だと思います。

 

自立支援というと、「自分でできるようになる」とか「誰にも頼らなくてもいいようになる」ということを目標にしてしまいがちですが、それは現実的に難しいです。

 

ご高齢者の自立支援をする時は、回復を目指すのではなく現在の身体で今ある環境に適応していくことを目指した方が好ましいです。

 

もし、手足を動かして「自分でする」のが難しい人であれば、介護者という「ツールを使う」というのも、1つの自立した行為です。

 

全てを自分でできるようにと身体機能を向上させるよりも、できないことを受け入れて、人や物に頼ることができるという自信から、自ら活き活きと生きていこうという心理状態を作ってあげることが、私たちに求められる支援だと思います。

 

 

 今回、心理学の視点から『本当の自立支援とは何か』を考察してみましたが、いかがだったでしょうか?

 

私は、普段介護施設で働きながらも、心理学の勉強をしています。

 

その分、介護保険などの制度や法律、コロナウイルスなど感染症に関する知識が疎いわけですが、、

 

しかしそれは、自分には変えられない領域のことだからです。

 

正直、国や介護施設の在り方に疑問を感じたりもしますが、1介護職員個人には変えようがありません

 

だからこそ、自分に変えることができる可能性のあるもの、自分自身の心や相手の心に与える影響、を変えるための努力をしています。

 

今回のお話にも出てきたように、できないことをできるようにするには、あまりにも不自由な世の中です。

 

自分のできること、やりたいことのために時間と労力を費やしましょう。

 

そのためのアイデアをこれからも発信していけるよう、頑張ります。

 

もし、気が向いたら、またお話に付き合って下さいませ。

 

閲覧ありがとうございました。