介護学×心理学ブログ

低賃金、人手不足、3K、何かと問題ばかり抱える介護業界。なぜ、介護の分野は成長していかないのか?それは専門性が低いからであり、あったとしても感情的・根性論が多いのが現状。介護の専門性とは何か?どうすれば向上していくのか?介護の本質を知らない、あるいは興味がない経営者に代わって、論理的に解説するブログ。

問題行動の原因と対策は、ひとことで解決できる。

【目次】

 

 

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問題行動の最も効果的なアセスメント。~それは本当に「異常」なのか? 

 

 認知症高齢者の方の問題行動の最も効果的なアセスメントとは何でしょうか?

 

それは、タイトルにある通り、ひとことで解決することができます。

 

あなたは、利用者さんの問題行動の原因や対策を解決するために必要なこととは何だと思いますか?

今回は、それをひとことで解決に導いてみせましょう。

これは、『介護基礎学~竹内孝仁(著)』という介護士なら必読書の素晴らしい本から学んだことを元にした内容のお話です。*1

問題行動の最も効果的なアセスメントについて、解説していきましょう。

 

答えだけ知りたいよ。という方は、目次から最後の見出しまで飛んで下さいませ。

ただ、結論に至るまでに必要な概念があるため、これからはそれをお話します。

 

 

介護士に関係あるのか?」問題でわかる、あなたのプロ意識

 

 まず、初めにお話したい内容は、介護士に関係あるのか?」問題についてです。

 

どういうことかというと、そもそも、利用者の問題行動は介護士に関係あるのか?という疑問があることです。

 

まぁ、当たり前に関係はあるでしょう。

それは、利用者の方々の身の安全や、介護士側の業務に差し支えるという意味で関係があります。

つまり、認知症の方の問題行動によってもたらされる弊害をなくすために、対策をとるのはいいのですが、

その人の行動自体に問題があると判断するのは、少し浅はかと言えるかもしれません。

要するに、問題行動の原因や対策として、その人の行動や人間性を変えようとするアプローチは間違いだといえるのです。

 

 

 そして、ここで言っておきたいのが、そうした問題行動を起こす利用者の方に対して、「あの人はダメな人だ」「認知症だから何を言っても無駄」と吐き捨てるように言う職員がいますが、あなたにそれを言う権利があるのか?ということです。

少し愚痴をこぼすくらいならいいのですが、そう言って問題行動の原因と対策をアセスメントすることをやめてしまうのは、プロとして失格だと思います。

 

確かに、問題行動につながる原因は、認知症によるものかもしれませんし、その人の元々の性格かもしれません。 

介護士に関係あるのか?」とは、その人がどんな行為をしても、その人の人間性がどんなでも、私たち職員が評価していい対象ではないという意味です。

それは、単に、「ご高齢者は人生の大先輩だから」などという薄っぺらい価値観を押し付けたいのではありません。

私たちが、利用者の方を「異常」と判断して考えるのをやめてしまうのは、「何も解決されなくなる」ということと「心に闇がひそんでいる」という2つの問題につながるからです。

 

まず先に、「異常」と判断する心にひそむ闇について、介護学と心理学の分野両方の視点から言及してみます。

 

 

「異常」と判断する、あなたの心にひそむ闇

 

 簡単に言うと、自分たちが「正常」であるという前提が心にあるということです。

 

先ほど、介護士に関係あるのか?」というお話の中で、利用者の行動により引き起こされる問題に焦点を当てるのはいいとしても、利用者の行動自体を問題として判断する権利は介護士にはないと言いました。

 

これは、道徳的な意味を込めて言及していることですが、それだけではなく、プロとしての視点に立って問題を解決するためには必要な考え方なのです。

同じことを竹内孝仁さんも、その著書介護基礎学の中でおっしゃっています。

 

 ”異常”と判断する背景には,”正常”という世界があり,こちらが正常な世界にいて,いわば向こう岸の異常を眺めていることになる.こうした正常世界と異常世界との対置関係に立つかぎり,共にあるという共感的世界はつくられてこない.~介護基礎学

 

この「共感的世界」が作られていないとどうなるかというと、介護士は利用者の抱える問題を他人事として見るようになり、原因となるその人の感情や対策につながる糸口が見えてこないわけです。

もちろん、一歩引いた視点から観察し、プロとして個人的な感情を元に関与しすぎるのは良くないかもしれません。

しかし、本当の意味でその人の感情を共に感じ、問題を見出し解決に導くには、「彼ら」と「我ら」ひいては「異常」と「正常」という立場をとってしまえば、見えてくるものも見えてこなくなってしまいます。

 

職員と利用者、提供者とお客様、という位置付けを守る必要はありますが、全く別の生き物ではない、共感し得る部分があるということも念頭に置いておかなければなりません。

こうした、社会的でありながらも関係的であるという(わかりやすく言うと社会人として家族としての)、立ち位置が求められる介護士は複雑かつ困難な仕事なわけです。

 

 

 そこで、この考え方をもっとクリアな視点に立って意識するために、心理学の知識を用いてみましょう。

 

例えば、犯罪心理学の世界では、犯罪の要因を個人の中にみる立場社会の側にみる立場と、2つの視点から研究が行われてきました。

 

もし、「問題行動」の要因を個人(認知症高齢者)の中だけで見出してしまう立場をとるなら、何も改善しないという地獄に陥ることでしょう。(犯罪と問題行動を同じこととして考えるのはいかがなものかとは思いますが)

 

それでは、社会側に要因があるとしたら、何が視野に入るでしょうか?

それは、介護士やその他の取り巻く環境たちの視点や価値観と、環境そのものの2つのことが見出せます。

前者については、繰り返しになりますが、利用者の行動を「異常」と判断する価値観が問題行動の要因となるのです。

 

フランスの社会学デュルケームによると、

『犯罪とは絶対的な意味での悪ではなく、ある社会においては「悪」とみなされるというものにすぎない。規則があるから「逸脱」があり、善悪の基準があるから「悪」が存在する。別の規則や別の基準を持つ社会では、それは逸脱でも悪でもない。したがって、悪や犯罪は、それ自体が何かの固有の性質を持つ行為ではなく、社会の側に存在する規則や基準によってそうであると認定されたものであるにすぎない。』*2

 

この文章が、ここまでのお話の言いたいことの全てと言っても過言ではありません。 

介護現場に言い換えるなら、『利用者の行動を「問題」として扱う社会があるから、その人の行動は「問題行動」となる』ということです。

 

「犯罪」や「問題行動」といった、他人に迷惑をかける行為を肯定しているわけではありませんが、それは、他人が迷惑に思わなかったら、迷惑にはならないということです。

つまり、行動自体には善悪の基準はなく、その人の行いは、ただ単に人間の本能や欲求から引き起こされたものにしかすぎないのです。

 

とても当たり前のことを言っているように見えるかもしれませんが、みんながあまり考えないことです。

 

「殺人を犯してはいけない理由」は、何でしょうか?「法律で裁かれるから」です。

 もし、無人島でサバイバルな状態」という前提条件があった時、「家族を守るため」となり、殺人は正義の行為になります。

介護施設無人島ではありませんが、居住者がそこから抜け出せない(特にコロナ禍では外部との接触もほぼ皆無)という意味では共通点があります。

そこに通い勤める職員は、外部にある社会規範や基準を持ち込みすぎては、利用者の行動が「問題」として浮き彫りになるばかりで、お互いにストレスが増してしまうことでしょう。

介護現場には介護現場にしかない世界として、ありのままの姿を見つめましょう。

 

かといって、そこに住む利用者の方々は、自分たちと全く別の生き物でもありませんよね?

同じ人間でありながら、自分たちとは違った性質を持つ人たちなのです。

それなのに、職員は利用者が思い通りに動いてくれない時、「あの人は頭おかしい」と評価しがちで、職員同士で愚痴りあうこともしばしばあります。

しかし、それ言い合う隣の職員を見つめてみて下さい。

その人はあなたと性格や価値観が全て合致しているでしょうか?

そんなドッペルゲンガーはありえません。つまり、「異なる」という点ではみんな同じであるということです。

 

 

 私たちは、相手が良い人間かどうかを判断するには、自分にとって都合が良いかどうかの基準だけで判断しがちなのです。

そして、そう判断する時にはたいてい、自分たち側は正常であるという前提を必ず持つという、とても醜い生き物なわけです。

 

というお話ばかりしていたら、人間不信になりかねません。

ここからは、現実的に問題行動の原因と対策を見出すための最も効果的なアセスメントをご紹介していきたいと思います。

 

 

本当に効果的なアセスメントとは?

 

 まず、『問題行動』の対策をする上で、『アセスメント』の重要性を再認識する必要があると思います。

 

私たちが普段行っている『問題行動』の対策には、『アセスメント』という重要なステップが抜けており、効果のない対策ばかりをしてしまっている可能性が大きいのです。

 

 

 例えば、あなたが普段現場で行っている『問題行動』の対策とはどんなものでしょうか?

 

たいてい、「その人がどんな人か」「どんな症状や問題があるのか」「私たちは何をすれば効果的なのか」ということを考えるくらいでしょう。

つまり、「その人の性格や病気」「問題となる行動」「その対策」のステップに分けて考えるくらいです。

 

しかし、そのような状態で問題行動はなくなっているのでしょうか?

良くても”その場しのぎ”くらいで、なくなることはないでしょう。

そして、何度も繰り返されるがあまり、私たちは「もう何回言ってやっても無駄」と距離をとるアプローチをとってしまいがちなのです。

(もちろん、感情的にならないために距離を置くという行為を間違った行いだとは言っていませんよ)

 

何度も繰り返されるのは、認知症だから、すぐに忘れてしまうのが原因なのでしょう。

でも、「何回言っても無駄」というのは、介護士側が無駄になるアプローチをとっているからということもできるでしょう。

つまり、その場しのぎではなく、根本的にその人が落ち着く工夫こそするべきなのです。

 

そこで重要となってくるのが、『アセスメント』です。

「いや、アセスメントなんて嫌というほどしているよ、こちとらプロなんだ」という人のために、その間違いを指摘するのに最適な引用をしてあげましょう。

 

 よく見受けられる”異常行動の羅列”は,単に現象だけを表現するものであって,アセスメントではない.それだけではケアの方法が示されないからである.~介護基礎学

 

今まで、その人の問題行動を挙げてその時どういう対応をとるか、とだけのケアの確立をしてきた人たちは、悔い改めるべきでしょう。

つまり、その人がその行動を起こすきっかけとなる原因をアセスメントするという、最も重要なステップが抜けているのです。

 

 

先ほど言った、「その人がどんな人か」という性格や病気に焦点を当てるのは、いわば『診断』のステップです。

次に、「どんな症状や問題があるのか」というのは、『問題行動の羅列』のステップでしょう。

最後、「私たちは何をすれば効果的なのか」という、『対策』を考える前に、

「なぜ、そうなったのか?」というきっかけや原因を見出す、『アセスメント』のステップが必要です。

 

 ケアへの手がかりを与えるアセスメントの要素は,「いつ」「どのような状況で」「なぜ」を明らかにすることである.アセスメントによってこのことがわかってくれば,それに続くケアの方法を知ることは困難ではない.介護基礎学

 

『問題行動の羅列』が終わったら、次は『対策』としてどんな対応をするのかを話し合うのではなく、どんな時にそれが起こるのかを『アセスメント』しましょう。

 

もっと簡単に言えば、『観察』です。

例えば、その人が帰宅願望を訴える時には、ほとんどの場合「夕方である」とか。

その人が職員や他入居者に対して暴力的になる時は、決まって「便秘の時」とか。

その人が職員の声かけに否定的になるのは、だいたいが「1対1の会話の時」とか。

 

もし、『原因』を見出すことができたら、その後の『対策』は容易なはずです。

「夕方である」なら、その時間意識を違う方向に向ける活動をしてみるとか、その時間に役割を与えて帰宅願望スイッチが入らないようにするとか。

「便秘の時」なら、食事や下剤、排泄タイミングのコントロールが必要とわかったり、

「1対1の会話の時」に拒否されるなら、他入居者の目のあるところでその人が視線を気にする状況を作り出してから声かけするとか。

 

これらは、全てうまくいく答えではありませんし、なんか姑息な手だなとも思えてしまうような対策でしょう。

しかし、こうでもしないと見出されない対策ばかりです。

 

原因やきっかけを探す『アセスメント』をしないで、「帰宅願望を訴えられたらどう返事するか?」「暴力的になったその人をどう抑えるか?」「どんな声かけが否定的にならないか?」と、『対策』ばかりを考えるのは早すぎるわけです。

 

そして、このような状態にあるケアの現場がほとんどではないでしょうか? 

人手不足の中、なかなか利用者の方に対して意識を向ける時間が減ってきていますが、そんな時だからこそ、根本的な問題解決をして、二度と問題につながらない工夫が求められるでしょう。

 

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「問題行動」を解決に導く、ひとことって?

 

  ひとことで解決してみせましょう。

問題行動の原因と対策は、『環境とのミスマッチ(をなくす)』です。

 

問題行動の原因は、環境とのミスマッチであり、対策は、それをなくすことです。

 

問題行動の原因となる『環境とのミスマッチ』には、2つの側面があって、1つ目がその人の行動を問題扱いする側の心にあって(『「異常」と判断する、あなたの心にひそむ闇』参照)、

2つ目がその人の行動が問題となる環境にこそ原因がある(『本当に効果的なアセスメントとは?』参照)ということです。

 

 

 ここで一つ、面白い例をしてみましょう。

 

あなたは、手から元ある数以上の爪が生えてきたり(しかも結構痛い)、四六時中他人の思考や感情が頭の中に潜入してきたり、どんな姿にも変身できる代償に元の姿は青く醜い生き物になってしまったり、このような生き方を望むでしょうか?

そう、これは私の大好きな映画・コミックスのX-MENの主人公たちのことです。*3

(観たことない人は絶対観た方がいい、人種差別なんかを考えるのによい機会だ)

 

彼らは、「ミュータント(突然変異)」と呼ばれ、元は同じ人間であるにもかかわらず、「おかしな存在」として扱われています。

しかし、ひとたび世界を救うために悪者を倒すと、今度は「ヒーロー」として扱われます。

 

これと同じことが、認知症の方にも言えないでしょうか?

元々は同じ人間であるにもかかわらず、認知症になってしまえば、「人」ではなく「物」として扱ってしまう節があります。

そこまではいかなくとも、「我々」職員と「彼等」利用者は、別の生き物のように感じてしまいがちです。

問題ばかり起こす利用者の方に対して、「あの人は何を言っても無駄」という目で見たことはあるでしょう。

しかし、ひとたび笑顔や感謝を見せてもらえれば、「かわいい」と言って、「マスコットキャラ」として見るようになります。

 

つまり、その人を見る側の視点、その人が置かれる状況、という環境がその人がどんな存在かを位置付けるのです。

 

 

そして、介護士なら誰しも聞いたことがあり心に留めているはずの事実、『利用者にとって介護士こそが環境』です。

 

もし、その自覚があるなら(なくても今日から)、

「その人の行動が問題にならない環境ってどんなだろう?」ということと、

「その人がこの環境に適応するにはどんな支援が必要だろう?」という2つのことを考える努力をしましょう。

 

変えるべきは、その人と環境との適応レベルと、介護士という名の環境整備そのものです。

これからは、「何を言っても無駄」のひとことで吐き捨てるのはやめにしましょう。

 

X-MEN』の登場人物たちがヒーローになったように、その利用者の方が美しくも可愛らしくも見える環境があるはずです。

どうせ同じように関わるなら、その人のネガティブな側面よりポジティブな側面に目を向けられるようにした方が介護士にとってもメリットがあります。

 

ただ、どんな工夫を凝らしても解決できないこともあります。

 

そんな時は、「ニーバーの祈り」を捧げましょう。

「神よ、

変えることのできるものについて、それを変えるだけの勇気を与えたまえ。

変えることのできないものについては、それを受け入れるだけの冷静さを与えたまえ。

そして、それらを見分ける知恵を与えたまえ。」

 

私たちにできることは、その人の問題となる行動や人間性を変えることではなくて、その原因となる環境を変えることです。

それ以上でもそれ以下でもありません。

ただそのほんの些細な工夫をする努力だけは、やめないようにしましょう。

 

閲覧ありがとうございました。

 

【参考文献】