介護学×心理学ブログ

低賃金、人手不足、3K、何かと問題ばかり抱える介護業界。なぜ、介護の分野は成長していかないのか?それは専門性が低いからであり、あったとしても感情的・根性論が多いのが現状。介護の専門性とは何か?どうすれば向上していくのか?介護の本質を知らない、あるいは興味がない経営者に代わって、論理的に解説するブログ。

【第2回】「Accept」自分の中にある非現実世界を自覚しよう。~意識高い系介護士に送る『ACT』

【目次】

 

 

前回のおさらい。~「非現実世界を自覚する」というお話。

 

fukushimirai.hatenablog.jp

👆の続きです。

 

前回のお話を要約すると、

意識高い系介護士さんは、「正解がわからない」と悩むことがある。

しかし、介護の仕事や人間関係に、「正解はない」のである。

そんな人には、『ACT』といわれる心理療法が効果的なのではないか。というお話です。

 

『ACT』とは、「自分の現実(特に苦しみ)を受け入れ、価値を明確にし、効果的な行動をしていく心理療法のことです。

 

つまり、自分が作り上げた理想(幻想・非現実)が間違いであるかもしれないことに気づきましょうって話です。

 

そもそも、この心理療法のベースとなっている『マインドフルネス』とは、「気づく」行為です。

まずは、あなたの心にある思考や感情に気づくことから始めましょう。

 

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自分の思考と感情をしっかりと自覚する。

 

 あなたは、自分の思考や感情を自覚することができているでしょうか?

「今、自分が何を考えているのか?感じているのか?」を、その”詳細まで”把握するのです。

これが意外とできていない人は多くいます。

 

例えば、あなたは「介護なんて誰でもできる仕事だよ」と言われて、腹が立ったとします。

それをちゃんと自覚できているのか、という話です。

「いや、腹が立ったことくらい自覚しているよ」と言いたいかもしれませんが、それでは足りません。

なぜ腹が立ったのか、どのようにして腹が立ったのか、”詳細まで”把握する必要があるのです。

 

「介護なんて誰でもできる仕事だよ」と言われて、腹が立った。

なぜなら、「大変な仕事を頑張っているのに」という思考が、自分の中にあるからだ。

そして、「何も知らないくせに」「じゃあお前やってみろよ」と言い返してやりたくなった。

ということは、自分は「大変な仕事をしている自分を労ってくれない」ことに落ち込んだのか?

もしくは、「誰でもできる仕事」だとは思わない、その理由も明確にある。のか??

 

こういったプロセスを踏むことが、「自分の思考や感情を自覚する」行為です。

あまり、「自分は今、こう考えているな...」と深掘りして考える習慣のある人は多くはいないことでしょう。

なぜなら、ネガティブな感情というものはとても不快なもので、意識を向け続けるのはあまり気持ちの良いものではありません。

多くの人が、「考えないようにしよう」と感情を無視したり、「どうしても我慢できない!」と感情に飲み込まれるかします。

 

しかし、そんな不快を感じるネガティブな感情を、自分にとって悪いものと解釈するのかどうかは、あなた次第です。 

この意味を、これから解説します。

 

先ほどのように、自分の思考プロセスや複雑な感情を、その細部まで把握することができたら、次のステップに移りましょう。

 

『前提の価値観』を疑うです。

 

 

『前提の価値観』を疑う。

 

 人は、ネガティブな感情を抱いた時、2種類の反応がみられると言われています。

『闘争・逃走反応』といわれるものです。

 

人は、ストレスに対して「闘う」か「逃げる」か、どちらかの選択肢がとられます。

「こんなことを考えるなんて、自分はなんてダメなやつなんだ!」と、考えるのをやめようとしたり、ストレスから逃げる選択をとる逃走反応。

「こんな気持ちにさせるその相手は、最低なやつだ!」と、戦争を選ぶ闘争反応。

 

このような状態を、ラス・ハリスさんは『コントロール戦略』という言葉を使って解説されています。*1

自分の感情に気づき、正しいと思える行動を選択していくために、この『コントロール戦略』という言葉は覚えておいて損はありません。(いや絶対覚えておこう)

 

簡単に説明すると、

「人は自分の感情をコントロールできなければならない」という思いから、自分の自然な思考や感情を否定して、意識をコントロールしようとすることを『コントロール戦略』といいます。

 

しかし、この戦略には3つの欠点があると言われています。

1.多くの時間とエネルギーを使う割に、長期的には効果が薄い。

2.追いやった思考・感情はすぐに戻ってきてしまうため、自分は愚かで不完全で弱いと感じてしまう。

3.短期的に不快感を封じ込める戦略の多くは、長期的には生活の質を損なう。

幸福になりたいなら幸福になろうとしてはいけない

 

つまり、何か嫌なこと、不快な出来事のせいでネガティブな感情を抱いた時、それが悪い状態であると認識し、人は多くの時間その感情を追い払うことに注力します。

しかし、なかなか感情を制御することは難しいため、それができない自分のことを責めるようになるのです。

結果、元あったストレスよりも強いネガティブな感情を抱くはめになります。

 

これが、『コントロール戦略』の大きな欠点です。

「自分の感情をコントロールできる人間であらねばならない」という思い込みから、地獄の罠へと突き進むことになります。

もし、ネガティブな感情を抱いていても、そんな自分を許せるメンタルを持つことができればいいのですが......

特に意識高い系の介護士さんは、介護士として心に余裕を持っておかなくては」と自分に厳しくし過ぎているのではないでしょうか?

 

そして、『コントロール戦略』がうまくいかないと、自分がストレスを感じている原因を考え込もうとします。

しかし、それも、ラス・ハリスさんは良い戦略ではないと言っておられます。

・「どうしてこんな気分なんだ?」

~中略~

 人々は、自分がこうも悪い気分である理由を見つけられるかもしれない、そうすれば気分を良くする方法も分かるはずだと考えて、この問いを発する。だが不幸なことに、この方法はたいてい裏目に出る。さらに、ほとんどの場合、不快な感情が起こった理由は大して問題ではない。問題なのは、それに対するあなたの反応なのだ。感情はあくまで感情にすぎない。いちいち分析することなしに受容(アクセプタンス)できれば、多くの時間と労力が節約できる。

 

前述した、「介護なんて誰でもできる仕事だよ」という言葉に、腹を立てた話を覚えているでしょうか?

これは日本語という言語文字の羅列以上のものではありません。

その人に、我々介護士を批判しようとする意図があったとしても、それはその人の感情以上のものでもありません。

さらに、その言葉やその人の意図に腹を立てる自分自身の感情も、それ以上の意味を持ちはしません。

問題なのは、そんな感情を抱く自分を否定しようとする思考と融合(フュージョン)してしまっていることです。

 

つまり、「ネガティブな感情を抱くなんて、おかしな状態だ」という『前提の価値観』が、自分の中に存在するわけです。

 

ネガティブな感情はとても不快で、振り払いたくなる気持ちはわかりますが、よくよく考えてみると、嫌な気分になることは人間として当たり前の現象です。

それをどうにかしようとする『コントロール戦略』は、うまくいかないどころか、状況は悪化してしまうでしょう。

これと同じことを、仏教からも学びを得ることができます。

 

 

『第二の矢』

 

「悪口のようなことを言われて腹が立った」以上の出来事や感情は現実に存在しないはずなのに、

自分がそれをなんとかコントロールしようとして、そしてその戦略はたいていうまくいかず、元々あった以上のストレスを抱えるはめになります。

 

これを、仏教では『第二の矢』という言葉で教えられています。

 

「誰かに悪口を言われた」『第一の矢』だとすれば、

「腹が立って居ても立っても居られなくなった」というのが『第二の矢』になります。

 

『第一の矢』を受けてしまうことは、生きている上で仕方のないものですが、

『第二の矢』は受けないようにしよう。という教えです。

 

ここで、『ACT』の定義を思い出してください。*2

A = accept 思考と感情を受容する。

C = connect 自分の価値とつながる。

T = take effective action 効果的な行動をする。

幸福になりたいなら幸福になろうとしてはいけない

「自分の現実(負の感情含めて)を受容し、自分にとっての価値を見出し、効果のある行動をとっていく」心理療法です。

 

『第一の矢』を受けても、それは仕方のないことだと認めて、自分にとって徳(効果)のある行動をとっていきましょう。

もし、本当に効果的な行動がとれたのであれば、次からは『第一の矢』すら回避できるかもしれません。

 

 

 ここまでで、思考と感情を受容する『Accept』の大切さがわかって頂けたでしょうか?

次回からは、本格的に「正解がわからない」と悩む意識高い系介護士さんのためのお話を展開させていきます。

 

前回、「そもそも正解はない」と結論を出しています。

つまり、正解は「自分で見出す」必要があるのです。

ということで、ここからのお話は、『Connect』の自分の価値とつながるお話です。

 

それでは、また👋

 

【参考文献】