利用者を怒ってはいけない、でも腹が立つのは仕方ない。~介護職のアンガーマネジメント
時々、「利用者に対する尊厳を持て」という声が聞こえてきます。
介護業界の中には、この啓発をはき違えて、「介護者は認知症高齢者のいかなる行動にも否定や怒りの感情を持ってはならない」と捉えてしまっている方がいらっしゃるようです。
しかし、そんなことは無理です。
介護職員も人間で、腹が立つ時は腹が立ちます。
そして、利用者の方自身も、介護職員にそのような関わり方をしてほしいと望んでいるのでしょうか?
むしろ、自分の感情を押し殺しすぎて、利用者の方と人間的な関わりができていないことの方が、尊厳を持つことができていないのではないかとさえ感じます。
介護職員も、自分の感情を適切に表現して、利用者の方と人間的な関わりをする必要があります。
そのためには、感情的に振る舞ってしまっては本末転倒になるので、まずは感情のコントロールから始めましょう。
介護職のアンガーマネジメント、怒りのコントロールの仕方についてのお話をしていきます。
【目次】
怒りは、得するのか損するのか?
結論から先に言うと、その後の行動次第です。
今回のお話では、一貫して、あなたの怒りの感情がどうであるかは評価しません。
自分の感情を否定する行為は、自分の気持ちに嘘をつく行為です。
それではストレスの元になって当然ですし、相手側も別に望んではいないと思います。
あなたの感情がどうこうよりも、その後の行動の選択肢をコントロールする感覚を持ちましょう。
その際に使えるテクニックをご紹介します。
分析。~行動の選択肢に目を向ける。
まずは、自分の怒りの感情に気づきましょう。
「いや、それぐらい誰でも気づいてる」でしょうか?
そうではなくて、もっと事細かに分析するレベルにまで気づきましょう。
例えば、5W1Hで分析してみるとわかりやすいかもしれません。
why:なぜ腹が立った?◯◯さんに暴言を吐かれたからだ。
what:何に腹が立った?「~~」という言葉に傷ついたからだ。
when:いつ腹が立った?勤務時間中だ。
where:どこで?職場だ。
who:誰に?◯◯さんだ。
how:どのように腹が立った?その言葉が頭から離れなくてイライラして、やり返してやろうかとばかり考えていた。
このように、自分が現在体験していることや自分の思考に注意を払い、感情を切り離した状態で、ありのままをただ見つめることをマインドフルネスと言い、
自分が認知していることをさらに上から認知することをメタ認知と言います。
マインドフルネスでは、「良い」か「悪い」かなど、自分の感情的な評価は挟まないですし、メタ認知では、その自分の感情の見え隠れすらも認知します。
この2つの言葉、どちらを使ったとしても今回の話に繋がっていると思います。
ただ自分の感情について「良い」か「悪い」かと判断や評価をせず、ありのままを分析してみましょう。
そして、自分の感情に気づく時、たいていの人が「why」で止まっている気がします。
それでは、「なぜ自分は腹が立った?→◯◯さんに暴言を吐かれたから」「なぜ◯◯さんは暴言を吐いた?→あの人は性格が悪いから」というように、
自分の怒りの根本や相手の欠点を深掘りするだけで、負のループに陥るだけです。
「なぜ、自分は腹が立った?→◯◯さんに暴言を吐かれたからだ」
「何に、自分は腹が立った?→◯◯さんの~という発言にだ」
「どのように、腹が立った?→その言葉が頭から離れなくてイライラして、やり返そうとばかり考えていた」
この三段階の文章を作るだけでも、気づけることがあると思います。
「やり返したからって何になる?」ということと、「本当に自分のためになる行動は何か」ということに。
おそらく、相手に怒りの感情をあらわにしたりやり返したりするようなことではないはずです。
我慢しろというのではなく、やり返したとしても自分のためにならないことに気づき、本当に自分のためになる行動の選択肢に目を向けようということです。
かといって、怒りやネガティブな感情に苛まれて、分析する心の余裕もないという場合もあります。
そんな方のために、ここからは、緊急時に使える感情のコントロールのテクニックをご紹介したいと思います。
再解釈。~感情の筋トレにもなる。
イラっとしてしまった時、その怒りの感情をどう解釈するかは自分の考え方次第ですよと言われて信じることができますか?
実は、これは本当のことで、同じ怒りの感情を感じている人でも、その人の考え方次第で結果が左右されるそうです。
この特性を用いた手法で「リアプレイザル」という言葉があります。
何か緊張する場面に立たされた時は、「ドキドキしている」を「ワクワクしている」と言い換えたり、
腹が立つことをされたら、「あいつは性格が悪い」を「嫌なことがあったのかもしれない。あの人も自分と同じ人間で、感情の揺れ動きはあるさ」という解釈に変えてみます。
このように、言葉や思考を変換するだけで、パフォーマンスが向上したり感情が落ち着いたりと、実際に効果が出るのが「リアプレイザル」です。
それを裏付ける証拠として、最適な引用をさせて頂きます。
「リアプレイザル」が効くのは、そもそも「緊張」と「興奮」の感覚は、どちらも人体の反応という点では変わらないからです。人前でスピーチするときでも、会社で昇進が決まったときでも、人間の体は同じように心臓が激しく脈打ち、同じようにコルチゾールが分泌されます。
このときの私たちの体は外部の刺激に態勢を整えただけで、その反応を「緊張」と「興奮」のどちらに解釈するかは脳の判断にゆだねられます。
とのことです。
確かに、同じ状況に陥っても、ポジティブでいられる人とネガティブになってしまう人がいますが、身体が違う構造をしているかといえばそうではありません。
捉え方次第で、自分の感情や実際の成績までもが左右されてしまうということです。
そして、この本の中で著者の鈴木祐さんは、「リアプレイザル」は使えば使うほどにストレスに強くなるということも紹介されています。
ネガティブな状況をポジティブに言い換える訓練をしていくだけで、実際に感情のコントロールがうまくなっていくとのことです。
まさに感情の筋トレですね。
個人的に、この「リアプレイザル」が効果があると思うのが、一旦自分の感情を受け入れてから解釈を変えているところです。
先ほども言ったように、自分の感情を否定し続けるということは、自分の気持ちに嘘をつき続ける行為であるため、辛いと思います。
無理に優しくしようとする人はここに落とし穴があります。
ポジティブに振る舞うのは良いことかもしれませんが、自分のネガティブな感情を否定していることがストレスの元になってしまいます。
「自分はイライラしていない」「この人に腹を立ててはダメだ」「優しくしてあげなければ」と、自分の感情を偽る人がそれです。
その点「リアプレイザル」は、「この人に腹が立った」「でも相手も人間だ。一旦優しくしてあげようか」と、自分の感情を否定せずに解釈を変換させています。
自分の中にある感情を変化させようとする自制心よりも、同じ感情や出来事でもその捉え方を変えてみる発想力や遊び心の方が必要とされるということができるでしょう。
この話を聞いていると、怒りのコントロールをすることに嫌悪感がなくなっていくのではないでしょうか?
今回は、そのことを伝えたいのです。
怒りの感情を持つことに嫌悪感を感じる必要はありません。
人間ならば誰しも、ネガティブな感情になりますし、相手が守るべきご高齢者や子供であったとしても、腹が立つことはあります。
それが良いことだとまでは言いませんが、そういった感情を持つ自分自身を否定する行為だけはやめましょう。
自分の感情をありのままに表現してもいい時間を作っても良いぐらいです。
先延ばし。~未来の自分を意識する。
何度でも繰り返し伝えますが、自分が怒りを感じるのは仕方のないことです。
人間は感情の揺れ動きがあって当然の生き物です。
自分自身の感情を分析するにしたって、捉え方を再解釈するにしたって、自分の感情はありのままであることが重要です。
かといって、その感情をそのまま表現してしまっては、人間関係が崩壊していくでしょう。
「リアプレイザル」が効果的だといっても、いきなりネガティブな感情や出来事の全てをポジティブに言い換えられるものでもありません。
「なんで自分ばっかり我慢しなくちゃならないんだ」と落ち込んでしまうこともあるでしょう。
それを解決するために、自分が感情のままに表現していい時間を作るのがおすすめです。
毎日日記をつけている方なんかは、その日記に自分が感じている感情を文章に起こしてみて下さい。
「感情を表現していい時間」として日記をつけることには3つのメリットがあります。
1つ目は、「エクスプレッシブ・ライティング(筆記開示)」といって、自分の感情をありのままに文章に表現することによってストレスが減りメンタルが強くなるという認知行動療法があるためです。
(最低でも4日以上、8分~20分以上書くといいと言われている)
2つ目は、書いた文章を見返した時、自分の感情を客観的に見ることができ、どうすれば解決されるのかを冷静に分析できるためです。
3つ目は、怒りを表現していい時間があると、日常生活の中で怒りを感じた時、「今日は家に帰ってから怒るから、今は怒らないでおこう」と自分を制することができるためです。
このようにして、自分の怒りの感情表現を先延ばしすると、後になってどうでもよくなったりもします。
例えば、あなたが過去に感じた怒りや腹が立った出来事を思い返してみて下さい。
きっと、「今思えばしょうもないことだな」「無視しておけばよかった」と感じると思います。
その客観視を意図的に作り出すためにも、「怒っていい時間」を作り、日記をつけることはおすすめです。
自分の怒りを抑えようとする時に考えてしまうのが、「なんでこの腹が立つ相手のために我慢してやらなくちゃいけないんだ」ということです。
しかし、そうではありません。
相手のためではなく、自分のために感情をコントロールしているという感覚を持ちましょう。
もし、自分が怒りの感情を相手にぶつけたとして、事は収まるでしょうか?むしろ悪化しないでしょうか?
そして、そんな自分を後から振り返って誇らしい気分になれるでしょうか?
そんなことはないと思います。
自分が我慢をすれば、相手がわかってくれるという期待を持つのもやめにしましょう。
とりあえずでも今は怒らず、自分を制することができたら、未来の自分が過去の自分を誇れるという期待をしましょう。
そうやって、未来の自分の感情を意識して、自分のためになる行動を選択しましょう。
怒りのコントロールは、何よりも自分のため。
自分の怒りを抑えられる人、感情を制して理性的な行動がとれる人、は周りから見て強い人だという印象を持たれがちです。
そういう人を見て、「あんなに自分に厳しくなれないよ...」と思うかもしれませんが、それは大きな間違いです。
自分の怒りを抑える行為は、自分に厳しくしているというより、むしろ優しくしていると言えます。
現在の自分をコントロールするのは、未来の自分が過去を振り返った時に自己嫌悪に陥らないためです。
誰にとっても良い人であろうとして優しい人間を演じる必要はありません。
そもそも腹が立つ相手には共感したくはないと思うので、未来の自分に共感をしてあげましょう。
最後に、今回の話をまとめると、自分の怒りの感情はその後の行動次第で結果が変わってくるのは当たり前で、
自分の感情を「良い」か「悪い」かで判断したり怒りを抑えようとはせず、ありのままに受け入れて、その後の解釈や行動を変えてみましょう。ということです。
人は、怒りを感じた時、相手にやり返すか物に八つ当たりをするか暴飲暴食など自分の身を犠牲にしてしまいがちです。
それらは全て、未来の自分のためになるのでしょうか?
何よりも、自分のために感情のコントロールができるよう努めましょう。
閲覧ありがとうございました。