介護学×心理学ブログ

低賃金、人手不足、3K、何かと問題ばかり抱える介護業界。なぜ、介護の分野は成長していかないのか?それは専門性が低いからであり、あったとしても感情的・根性論が多いのが現状。介護の専門性とは何か?どうすれば向上していくのか?介護の本質を知らない、あるいは興味がない経営者に代わって、論理的に解説するブログ。

『帰宅願望』の対応で一番大事な考え方。その人は本当に「帰りたい」のか?

 

閲覧ありがとうございます。介護福祉士のTAKUMIと申します。

 

 介護をされている方は、認知症ケアの中でも『帰宅願望』の対応をすることがいかに難しいことかはご存知でしょう。

 

今回は、『帰宅願望』の対応で一番大事な考え方と具体的な対応方法を提案させて頂き、実際にあった事例も踏まえて、『帰宅願望』のある方への視点を変えてみようかと思います。

 

答えとなる対応方法を伝えるのは難しい(というか存在しない?)と思うので、このような考え方はいかがでしょう?という内容のお話をさせて頂きたいかと思います。

 

介護職の方々に共感や参考にして頂けたら幸いです。

 

 【目次】

  

 

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『帰宅願望』の対応でやりがちなミス

 

 認知症の方の中には、毎日のように(毎時間のように)「家に帰らせてくれ」と『帰宅願望』を訴える方がおられます。

そのような方を対応する介護職がやりがちなミスがあります。

 

 

それは、説得しようとするです。

 

ハッキリいって、『帰宅願望』を訴える認知症のある方に、論理的に説明しようとしても無駄に終わるか余計に怒らせることが多いです。

その理由と、どうすればいいのか?についてお話していきます。

 

『帰宅願望』で一番大事な考え方は、「その人を説得しようとするな」です。

 

 

原則「説得はするな」

 

 「家に帰りたい」という利用者の方に対して、「あなたは帰れない!」「今日はここでお泊りですよ!」と応える介護職の方がおられますが、

どんなに正当な理由を説明しても、認知症高齢者の方は納得されないことがほとんどです。

 

そのため、「説得はするな」を基本原則としてもっておいた方が良いかと思います。

反対意見はもちろん、禁止用語を使うこともあまりよろしくないです。(「◯◯してはダメ」など)

 

 

 なぜなら、認知症高齢者の方が求めているのは「正当な理由」より「共感できる根拠」だからです。

 

どういうことかというと、自分が家に帰れない理由なんて知りたくもないのです。

というより、もうすでに理解があるのかもしれません。

家に帰れない状況にあるのはわかっているけど、それを受け入れることができずにおられるのです。

そして、無残にもそれを説得しようとしてくる職員がいると、余計に腹が立つのです。

 

 

それでは、どのようにして対応していけばいいのか?に焦点を当ててお話していきます。

 

 

「帰りたい」という思いには、感情に共感する

 

  『帰宅願望』への対応方法の原則として、「その人を説得しようとするな」と言いましたが、

それは、説得しても無駄か逆効果になってしまうからであり、その人の「帰りたい」という思いを変えることはほぼ不可能です。

 

介護職員側の人にもその気持ちはわかるかと思います。

永遠に施設に閉じ込められると想像しただけで、今すぐ窓を突き破ってでも外に出たくなることでしょう。

 

しかし、実際はそんなことはできません。

名前も顔も知らないケアワーカーという名の行く手を阻むものたちがいるからです。

 

 

 そうやって、自分の「帰りたい」という衝動を抑えつけられると、利用者の方のストレスは増幅するばかりです。

そのため、介護職員は「帰りたい」という思いに共感してみましょう。

利用者の方が「帰りたい」とおっしゃったら、「そうですよね、帰りたいですよね、家が一番落ち着きますものね」と、ただただ共感の姿勢をみせるのです。

それでうまくいく。なんてことは言えませんが、反発するよりはよっぽど良いです。

 

もし、家に帰れない状況に共感してくれて、そばに寄り添うことしかできないという姿勢の職員がいてくれると、「一緒に考えてくれている」という信頼や安心感を与えることができると思います。

そのため、介護職が対応するとしたら、帰れないことに共感してくれる子を演出するのが好ましいです。

「帰れない」という現実がある中『帰宅願望』を訴えることを問題として捉えるのではなく、一緒に問題解決しようとする立ち位置です。

 

 

帰れないという現実を「正当な理由」で押し付けるより、帰れないという事実を「共感できる根拠」で理解を得る方が、感情の鎮静が図れるかと思います。

 

 

 「帰りたい気持ちは変わらないけど、もうちょっとここにいてみようかな」と思って頂くことができたら、『帰宅願望』の対応として正解だったといえることでしょう。

 

 

「帰らなあかん」という思い込みには、論理的に説明する。

 

 逆に、「帰りたい」という気持ちが強いわけでもないのに「帰らなあかん」と訴える方もおられます。

 

例えば、『夕暮れ症候群』のように、夕方になるとソワソワし出して「もうそろそろ帰らせて頂きます」と言われることがあります。

「子供たちに夕飯を作らねばなりません」「家で両親が待っている」とのことです。

 

しかし、実際は子供は結婚して外に出ているため、独居で夕飯を作る必要はありません。

80歳や90歳の方には両親がこの世におられることは少ないため、こちらも独居です。

 

つまり、帰る必要性はありません。

だからといって、「家に帰っても独りぼっちだよ!」「あなたの両親はこの世にはいない!」などといって現実を突きつけるわけにはいきません。(笑)

 

 

 「帰りたい」わけではないけど「帰らなあかん」と思い込む人には、今度は先ほどと打って変わって、”少しウソをついて”論理的に説明するのが吉です。

 

「実は先ほど家族様から連絡がありまして、今日は家を空けるそうですから家に帰っても独りになってしまうようです。ですから、今日はこのまま泊まっていって下さいとのことです」

 

言っていることは変わりませんが、言い方を工夫さえすれば論理的に説明することは可能かと思います。

 

 

 「そうか、じゃあここで泊めてもらおうかな」と納得を得ることができたら、『帰宅願望』の対応として正解だったといえるでしょう。

 

 

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『帰宅願望』=「家に帰りたい」のではない?

 

 実際に、『帰宅願望』のある方をご自宅まで帰って頂いたことがあります。

 

その方は、普段から「帰りたい」と強く希望される方で、あの手この手で施設から出ていこうとされていました。

職員も業務で忙しい中だったため「もう勘弁してくれ」とイライラが溜まってしまい、それを感じ取られたのかその方もどんどん感情的になっていきます。

 

そこである日、「そこまで言うなら一度自宅に帰ってもらおう」と業務中に時間を作って、実際に帰って頂くことにしました。

車で自宅まで向かい家の中に入ると、「久しぶりに実家に帰った」ような表情をされて喜んで下さいましたが、どこか落ち着かない様子でもあります。

 

しばらくすると、その方は「ありがとう、連れてきてくれて。いつもいる場所に帰りましょう」とおっしゃるのです。

 

おそらくその方は、昔住んでいた実家より現在住み慣れている介護施設の方が、安心できる場所だと認識されていたのです。

 

 

なぜ、『帰宅願望』が起きるのか

 

 では、なぜ先ほどの方は施設で過ごしている間は『帰宅願望』がみられるのでしょうか?

 

私が思うに、『帰宅願望』=「家に帰りたい」のではありません。

 

 

「家に帰りたい」=「あの頃に戻りたい」のです。

 

 

実際に家に帰って生活することが困難なのは百も承知で、事情があって施設を利用せざるをえなくなってしまっていることも把握しておられるのだと思います。

 

しかし、そのような状況になった自分自身を受け入れることができていないのでしょう。

 

「もうこんなところ嫌!家に帰りたい!」は、言い換えると「もうこんな自分が嫌!あの頃に戻りたい!」になるのです。

施設を利用せざるをえなくなった自分、思い通りに行動できなくなった自分、が嫌でストレスが溜まっていくのだと思います。

 

介護職には、そのストレスをケアしていくことが求められるといえるでしょう。

決して、その人を変えようなどと説得してはいけません。 

 

 

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おわりに

 

 いかがだったでしょうか。『帰宅願望』の対応で一番大事な考え方でした。

共感して頂ける内容が少しでもあれば幸いです。 

 

 今回のお話の中で提案させて頂いた、

 

「帰りたい」という思いに共感してみよう。

「帰らなあかん」という思い込みには説明してみよう

そして、職員・利用者の方ともに感情的になった事例のご紹介もさせて頂きましたが、

 

どれも利用者の訴えに対して介護者が真摯になって対応することが重要だといえるかと思います。

 

つまり、「また言い出した」「何を言っても無駄だ」と言っていい加減な対応や反発するような姿勢を見せていては、その人に安心感や落ち着きを与えることはできないということです。

 

 

 『帰宅願望』の対応で一番大事な考え方、原則として「説得するな」は「相手をコントロールしようとするな」ということです。

どんな人間関係にも言えることだと思いますが、特に心身ともに弱っているご高齢者を相手にする介護職員はやりがちなミスだといえます。

 

「帰りたい」=「あの頃に戻りたい」という思いでいるご高齢者のストレスを軽減させてあげることが、介護職に求められる仕事かと思います。

 

閲覧ありがとうございました。