3つの演技力を身につけて、対人支援のプロになろう。
コミュ力は、表現力や傾聴スキル、語彙力やジェスチャーなどで上下するものとされています。
自分の意思を伝え、相手の思いを理解するために、様々な人間関係でコミュニケーション能力は重要です。
しかし、自分の思いや感情とは裏腹に、相手(または聴衆)を喜ばせなければならない職業があります。
それは、俳優やコメディアン、客商売をしているサービス業のことです。
その中には、介護士という職業も当てはまっていると思います。
介護士も、一般的なコミュ力以上に、『演技力』を身につけて、相手の感情に影響を与えることができたら、仕事の効率は良くなり、あわよくばプライベートにも活かすことができます。
人間関係や対人支援のプロになるために、介護現場で使える、または鍛えられる3つの演技力をご紹介します。
ぜひともお付き合い下さいませ。
【目次】
3つの演技力を身につけて、対人支援のプロになろう。
前回の記事(↓)でお話した、『介護士にあると便利な、意外な能力』の中に『演技力』が入っております。
今回は、その『演技力』に焦点を当てて、深堀りしていきたいと思います。
3つの演技力とは、『無知』『脇役』『別人』の演技です。
漢字2文字で並べて、中二病っぽく格好つけているようにみえるかもしれませんが、実際に介護現場で働く職員さんには共感して頂ける内容になっているかと思います。
(ちなみに、中二病っぽく格好つけているのは事実です)
また、新たな視点や根拠を持ってお話していくため、読者の方の考え方や行動の変化につながっていくように頑張ります。
それでは、始めましょう。
無知の演技
まずは、『無知』の演技力です。
簡単に言えば、知らないフリをして相手に教えを乞う行為です。
たとえ自分が知っていたことだとしても、「え!それって何なんですか!?(どういうことなんですか!?)」と聞いてみましょう。
「教えてもらっていいですか?」というように人からアドバイスを求める行為を、『アドバイスシーキング』と言うそうです。
状況にもよると思いますが、自分が知っていることや得意な分野のことを聞かれて嫌な気を起こす人は少ないかと思います。
基本的に人間は、教えてもらう時より自分が誰かに教えている時の方が気持ちが良いものです。
学校の先生が授業で、生き生きと勉強や道徳を教える割に、自分は生徒たち若い世代の価値観を学ぼうとしないのもこれに当てはまるかもしれません。
この、教えてもらうより教えてあげることに快感を覚える人間の特性を、対人支援の場で活かしましょう。
もちろん、相手が上司でもいいですが、ここではご高齢者を対象に話を進めます。
正直、認知症で世代も違うような人の話を聴くことに喜びを感じる介護職員は少ないでしょう。
何度も繰り返される話を聴いているより、スマホを触りたくなる気持ちはわかります。
しかし、無知を装ってアドバイスを求める行為は、お互いにとって刺激的です。その理由は後ほど話します。
では、どんなアドバイスを求めるのか?認知症のある人から何を聴けばいいのか?
それは、その人の過去の話です。
認知症高齢者の方は、短期記憶の力が衰えて少し前に食べた食事すらも覚えておられませんが、長期記憶に保存されている過去の思い出は覚えておられることが多いです。
近頃は、人手不足により一人当たりの業務量が増加しているため、利用者の方とゆっくりお話する機会を作ることができていない職員さんも多いことでしょう。
最近になって介護現場に就職したような人は、業務中に介助や雑務以外で、レクリエーションやコミュニケーションを行う機会がなく、利用者個人の歴史を深く知らないという人もいると思います。
実際、利用者の方に昔のことを聴くと、とても喜んで話してくれる人が多いです。
人間は、自分のことを話すことで脳の快楽中枢が刺激されて、お金や食べ物といった報酬を与えられる以上に快感を感じるそうです。
私の場合は、この脳の特性と『アドバイスシーキング』を組み合わせて、自分が生まれてすらなかった時代の話を利用者の方に聴くようにしています。
すると、戦争中での出来事や心情、頑張ってきた仕事や家事など、現在とはギャップのある話を喜んでしてくれます。
もちろん、それでも私たち若い世代は、スマホでYouTubeを開いて動画を再生する方に魅力を感じてしまいます。
そこで、認知症高齢者の方に無知を装ってアドバイスを求めることのメリットに、プラスアルファがあると考えるなら、それは介護現場以外でも使えるということです。
冒頭でも言いましたが、演技力、つまりは表現力、つまりはコミュ力を身につけておくことによって、介護士としてのレベルが上がるだけでなく、プライベートの人間関係にも活かせることが大きなメリットです。
相手を喜ばせる方法を知っておけば、介護という密接なコミュニケーションの中で使えることも鍛えることもできます。
今回のテーマが「プロの介護士」ではなく「対人支援のプロ」なのはそのためです。
脇役の演技
続いて、『脇役』の演技力です。
人にはそれぞれの人生があり、それぞれの物語があります。
唯一共通していることといえば、自分の人生の主人公は自分だということです。
他者を助ける仕事である介護士をしていたとしても、他者を助けることによって満たされる自尊心や幸福感が原動力となっているはずです。
要するに、自分という人間を捨てきることはできないのです。
そこで、人生最期の瞬間に寄り添う介護士ならば、対象であるご高齢者に気持ちよく主人公を演じてもらいましょう。
そのためには、我々介護士はその人のストーリーに干渉しすぎないことが重要です。
利用者の人生や生活における意志決定に関与しすぎない意識を持ちましょう。
実際の業務時間内でも、求められれば手を貸し最低限のケアは施すことに留めるのはお互いにとって良いと思いますが、個人的な感情で「~~をしてあげたい」と必要以上のことを介護するのはあまり褒められたものでもありません。
赤の他人の人生最期の瞬間に寄り添えることはとても尊いことで、支えるという形で良い影響を与えますが、あくまで、生き方を決めるのは本人です。
別人の演技
これは、前回の記事の内容と被ります。
『別人』の演技とは、2種類あって、相手が認識している人物として演じるということと、個人的な感情より相手が求める姿を演じるということの2つです。
認知症により、自分のことを自分の子供だと勘違いしている利用者の方には、息子または娘を演じきってしまいましょう。
辻褄が合わなくなってしまうことを恐れて、丁寧に自己紹介するのは良いことですが、矛盾する辻褄や介護士の自己紹介など、忘れてしまわれることが大半です。
忘れてしまわれるから何をしてもいいというわけではありませんが、認知症の方が認知していることを否定するよりは、そのまま演じきってしまった方が事が上手く運ぶことが多いです。
他にも、医者の言うことならなんでも聞くという人がいるなら、ただの介護職員が白衣を着て診断してあげてもいいでしょう。
「あ~、これは◯◯という疾患ですねぇ。すぐにでも清潔にして薬を塗った方が良いです。今ちょうど職員の方がお風呂の準備をしてくれています。綺麗にした後薬を塗りましょう」
「はい!わかりました先生!」
という茶番演劇をすることによって目的が達成されるなら、演技をするに越したことはないでしょう。
何より重要なことは、「事実がどうであるか」より「相手がどう認知しているか」で、それによりその人に安心感を与えることです。
別人の演技には2種類あると言いましたが、重要なポイントとしては1つで、相手が求める行為や人物像を見抜き演じる能力のことです。
気持ちより行為の方が重要である。
「気持ちが大事」「優しさや思いやりの心を持て」または「嘘はバレる」「人を騙す行為はよくない」という主張もありますが、その人が安心できるかどうかの方がはるかに重要です。
自分たちが何をしてあげたいか何をすべきかより、その人が何をしてほしいのかに意識を向けましょうという話です。
介護現場や家庭内、恋愛関係まで、人はよく「~~なことをしてあげたい」とか「優しい介護士でありたい」とか願望を口にしますが、自分が何をしてあげたいかより相手が何をしてほしいのかを考える方がよっぽど重要でありましょう。
あなたという介護士が優秀かどうかを決めるのは利用者です。
自分の思いやりや気遣いを仇で返す認知症の方に対して、「こんなにしてあげてるのに!」「この人は長生きしてるのに感謝という言葉を知らない!」などという感情を抱いてしまうこともあるかと思いますが、
本当にその人のための行為をしたいのであれば、反応を伺い改善を繰り返すほかないでしょう。
家族や恋愛における人間関係と違って、幸いにも(?)相手は認知症の方で、細かい事実を忘れてくれたりもします。
だからといって、いい加減な対応をするのではなく、より良い対応ができる自分に成長するために、日々試行錯誤を繰り返しましょう。
認知症の方は、事実を忘れて感情が残るといわれています。
何があったか?より、どんな気持ちになったか?を刻み込みましょう。
事実ではなく、その人の認知の仕方にアプローチするのです。
それでは、どこにいっても通用するような、コミュ力または演技力を身につけるために、お互いに日々精進を重ねましょう。
閲覧ありがとうございました。