認知症高齢者の方に「居場所」を与える3つの工夫。
長く生きてこられた人が認知症になり、家で生活することが困難になると、介護施設という建物の中で暮らさなくてはならなくなることがあります。
言い換えると、縁もゆかりもない所で一生を終えなくてはならないということです。
本人からしたら、「家族から追い出された」「姥捨て山に捨てられた」と思ってしまっていることもあります。
かといって、どこでも生活できるというほどの自由度がないのが現実。
そんな現実の中で、利用者の方が「ここに居よう」「ここに居てもいいんだ」と思えるような環境作りで何ができるかを考えていきたいと思います。
「ちょっと家まで帰るわ」と何度も立ち上がる方、「私はもう死んでしまいたい」と嘆く方を対象にお話を進めていきます。
もし、介護現場のお仕事に役立てることができる内容であれば幸いです。
また、間違った考え方であれば、ご指摘を頂けるとこの上ないです。
それでは、認知症高齢者の方に「居場所」を与える3つの工夫。というテーマでお話していきましょう。
【目次】
認知症高齢者の方が「居場所」を感じる3つの要素。
よく、認知症高齢者の方に、「あんたは家で生活できないから、ここにいなきゃいけないの!」と言ってしまう人がいますが、あれは控えめに言っても最悪です。
家族様が面会に来られて、「仕事で忙しいんだ、お母さん(お父さん)の世話なんてしてられないんだ、わかってくれ」というような説得をされる方もいらっしゃいますが、残念ながらご高齢者にはわかりません。
その理由は、認知症により自分が生活することに困難が生じていることに自覚がないということもありますが、
だからといって、ここ(施設)に居なくてはならないということが理解できないからです。
施設での生活なんて、ただ椅子に座ってボーっとしているか、立ち上がって歩こうもんなら必ず職員がついてきます。
そんな不自由な生活、ただ座らされているだけの生活だったら、「家に居てもいいじゃないか?」と思って当たり前です。
そこで今回は、これから挙げる3つの要素を意識して環境作りに励み、利用者の方が「ここに居よう」と思える理由作りをしてみようという計らいです。
認知症高齢者の方に「居場所」を与えるために、我々介護士に何ができるでしょうか?
役割
まずは、利用者の方に、役割を与えましょう。
自立支援的な考え方になりますが、業務や家事の中でその人ができることを見つけ、任せきってしまいましょう。
注意しておかなければならないのが、従業員と同じように「やらされてる」と感じさせないことです。
介護者が「ありがとうございます!とても助かりました!」という姿勢を見せるぐらいに、いかに自分が貢献できているかを感じてもらうかがポイントです。
そして、「任せきってしまう」と言いましたが、役割として定着するように、体調や気分に合わせながらできるだけ毎回頼みましょう。
当然介護者は「いつもいつもありがとうございます。◯◯さんがいてくれないとやっぱりダメだなぁ」と感謝を伝えます。
例えば、役割として定着した利用者の前で、私のような若い男性職員がタオルなんかを不器用に畳んでいると、「こうやってしわを伸ばしながら畳むんだよ!」と教えながらも作業をかわってくれることがあります。
人間というのは自分に甘い生き物ですが、人の世話になっている時より人の世話ができている自分の姿に喜びを感じる人もいるようです。
仲間
次は、仲間意識を持たせるという試みです。
仲間意識とは、他利用者との関係性を指しています。
できれば、同じユニットにいる利用者の方々は似た者同士が多い方が良いと思います。
なぜなら、自分だけ身体的あるいはその他の機能が衰えているのに、周りの人が比較的元気(またはその逆)だと孤立した気分になってしまうからです。
当たり障りないからといって、元気な人とそうでない人を近づけるのは好ましくありません。
例えば、寝たきりに近い人と動き回れる人を近づければ、後者の方は「私はここまでお世話になる必要もない、場違いだから帰る」という感覚に陥っても不思議ではありません。
見守りが大変になるため避けられがちですが、よく動く人の近くにはよく動く人に来て頂くような席の配置などができると良いと思います。
心理学的にも『類似性の原理』といって、人は自分と似た存在を好む傾向にあるとされています。
我々職員でも、職場の人間関係で、趣味や好みのものが合う人がいると関係が良好になりやすいと思います。
反対に、職場の飲み会なんかで、自分だけが男で周りが女性ばかりだと辛くないでしょうか?
さすがに、女好きの方でも自分だけが違うことに多少のストレスは感じると思います。
これは、自分とは違う存在である女性に対して嫌悪感を抱いているのではなく、女子会の中で自分だけが違うということにストレスを感じているのです。
逆に、自分と同じ性別で似通ったメンバーでの飲み会は楽しいと思います。
また、異性と飲み会を開くにしても、同性の人が何人かいるだけで、安心感があると思います。
これを、介護現場に当てはめるとしたら、周りにいるのが車いすに座りっぱなしで話すことができない人や素早く動き回る若い職員ばかりだと、利用者の方はストレスを感じて当たり前です。
しかし、自分と類似している(共通点のある)人が周りにいてくれると、「どこに行けばいいかわからないし、この人と一緒にいようかな」と思えるかもしれません。
少し腹黒い言い方をすると、「自分以外にも困っている人がいるんだ」と感じさせることで、仲間意識を持たせることができるかもしれません。
実際に、友好関係ができあがった利用者間の関係で、相手が困っている時、「おばあちゃん大丈夫だよ、ここには職員さんがいるから」と声をかけているのをよく見かけることがあります。
(反対に、自分よりは大きく機能低下している人に対しては「あの人もうあかんな」と蔑む)
自分が行動を起こした時、周りが慌てだし、「あの人はおかしい人」という視線を感じさせるのではなく、
自分と同じく年老いて、困っている人が自分以外にもいるんだという仲間意識を持ってもらえるような関係性を作ることを意識しましょう。
信頼
今度は、職員との信頼関係です。
施設の中にいる利用者の方には、信用できて頼れる存在がいることが重要です。
特に、入居されたばかりの利用者の方にはそういった存在が必要です。
できれば、出勤率の高い常勤の職員や、退職予定のない人が好ましいでしょう。
認知症で短期記憶が低下してしまっていても、職員の顔と名前を覚えられる方もおられます。
「◯◯さんがいてくれたら大丈夫」「困った時は◯◯さんと呼んでね」と記憶を定着することができたら、利用者の方に圧倒的な安心感を与えることができます。
変な話、職員全員は覚えられず、信頼関係を築きにくい方であれば、「この人だけは話を聴いてくれる」という特定の職員から関係性の構築を図ってもいいです。
例えば、私が新人の頃に施設にいた利用者の方で、話を始めるととても長く話される方がおられました。
先輩方は業務に追われて忙しく、自分は新人で仕事がないため、コミュニケーションをとるのが仕事でした。
すると、「ここの人は誰も話を聴いてくれないけど、あんただけは聴いてくれる」と少しずつ心を開いてくれるようになります。
運良く信頼関係を築けた利用者の方に、「職員さんはみんな忙しいけど、◯◯さんのためを思って動いているんだよ」と伝えると、「あんたがそういうなら信用するよ」とだんだんと職員全体に対して心を開くようになっていきます。
反対に、私のような若い男性職員より、主婦で家事や趣味など話の合う女性職員を好まれる方もいます。
そういう人には、その女性職員の出勤日から心を開いて頂くのも良いでしょう。
利用者の方には、「ここにいていいんだよ」という安心感を与えることが重要です。
例えば、自分が乗っている電車が行きたい駅まで行ってくれるとわかっていたり、道を間違えてもGoogleマップがあれば安心ですよね?
電車に乗り慣れておらず、スマホも使えないお年寄りは、駅のホームで看板とにらめっこしたり電車に乗ってもキョロキョロしていることがあります。
そういう人に寄り添い、安心感を与えるという感覚を持ちましょう。
わからないことがあったら教えてくれる、誰よりも自分の行動を知ってくれている、いつでも話を聴いてくれる、
私たち介護職員は、利用者にとってのGoogleであるべきなのです。
「居場所」とは、そこにいてもいいという「安心感」のことである。
いかがだったでしょうか。
認知症高齢者の方に「居場所」を与える3つの工夫でした。
自分がその場にいることに意義を感じるような役割を与え、自分だけが浮いた存在にならないよう仲間意識を作り、「ここにいれば大丈夫」と思ってもらえるような信頼関係を築こうという提案でした。
文章を書いていて思ったのが、利用者ではなく職員を対象にしても同じことがいえるように思います。
つまり、やりがいを感じて、人間関係が良好で、会社を信用できる必要がある職員定着にも似ていないか?ということです。
何が言いたいかというと、利用者であれ職員であれ、人間に「居場所」を与えるために必要な条件は誰しも同じだということです。
職員定着率が100%にはできないのと同じように、利用者の帰宅願望も完全になくなるとは思わない方が良いです。
しかし、どちらの場合も、「ちょっとここにいてみようかな」と腰を落ち着かせてくれるタイミングを作ることが重要です。
つまり、人に「居場所」を与えるためには、そこにいてもいいという「安心感」を感じさせることであると思います。
閲覧ありがとうございました。